数百年前から生活の変わらない村で感じたBOPビジネスの可能性
数百年前から生活の変わらない村
インドの首都デリーから車で3時間半ほど、人々が数百年前から同じ暮らしをしているといわれている地域を訪れました。
インドにおいて少数派であるイスラム教徒、シーク教徒などの村のある地域のため、なかなか外部からの影響を受けることがなく人々の生活は昔から変わっていません。
写真.村の様子
村の旧時代的な生活スタイル
・野菜は村(近くの村)で収穫
・牛乳は飼育している牛から絞る
・燃料として木の枝と牛糞を燃やす
・家や小屋は土、レンガ、藁で建てる
・水は地下水を使用
身の回りにあるものを生活に使う
原始的で、持続的な生活。
写真.牛糞を燃料にして料理をする
写真.調理場の様子
当然、村の世帯平均所得は7000ルピー/月※1と、インドの中でもかなり低い水準です。(1ルピー=約1.85円)
村の人々の購買力と購買意欲
そんな村に滞在して、感じたことは
「貧困の村においても、人々は購買力をもち、魅力に感じたものは最先端のものでも生活にとり入れる」ということでした。
村の近代的な生活スタイル
・個人の銀行口座を持つ
・携帯電話を持つ
・石鹸、シャンプー、洗剤、歯ブラシを使用する
・コカ・コーラを飲む
・スナック菓子を食べる
・スマートフォン(5000ルピー~)を持つ
・バイク(45000ルピー~)※2を持つ
以下で村の住人へのインタビューを紹介します。
「ほとんどすべての村人が銀行の個人口座を所有し、貯蓄をする。数ヶ月貯金すればスマートフォンやバイクを買うことも出来る」
「多くの村人がスマートフォンを求めており、購入しているものも多くいる」
「一部の村人は手洗いの重要性を十分認識していないため石鹸を購入しないが、すべての村人は石鹸で手を洗うことの意味については理解し、金銭的には十分購入することができる。」
途上国の貧困者にとって貯蓄習慣はとても重要で、日銭で生活する人が貯蓄をしなかったために病気に罹った際に薬を買うことができなかったり、農家が不作の際に生活費が尽きてしまうというようなことが起きてしまいます。
インドにおいてはモディ首相が2014年8月に全国民が個人口座をもつ政策を発表し、現在世帯普及率はほぼ100%※3となっています。
訪れた村においても人々は銀行口座をもち、一部の人はバイクのような高価なものを購入するほどの購買力を持っていました。
当然、村の人々が先進国の人々や都市の人々と同じような購買意欲をもつわけではありません。村の小さな商店にはどの村でも同様の商品が並んでおり、その種類は限られています。
また、ある村人のバイクはトリップメーターのコードが切れていましたが、彼は「走れるので問題ない。今のバイクに満足している。」と笑いながら話していました。
しかし同時に、石鹸や歯ブラシ、洗濯用洗剤など必要を感じたものを生活に取り入れ、コカ・コーラ、スマートフォンといったように必ずしも必要ないものに対しても購入意欲をもっていることも強く実感しました。
BOPビジネスの可能性
BOPとはBase(Bottom) of the Pyramidの略で、BOPビジネスは所得階層が低い人々を対象としたビジネスのことを指します。
現在世界のBOP層は40億人※4といわれており、その巨大市場を取り込もうとする民間企業の価値向上と貧困層の生活向上・貧困削減の両立を同時に達成することがBOPビジネスには期待されています。
今回訪れた、インドの中でも所得が低く、後進的だといわれている村においてもHERO社(二輪)、HONDA HERO(二輪)、コカ・コーラ社、Airtel社(通信)、銀行、携帯電話メーカー、日用品メーカーの商品が消費されていました。
世界人口白書2013によるとインドの人口は12億5,210万人であり、2015年インドにおける低所得世帯の割合を76%(下記の図参照)とすると、インドには約9.5億人の低所得世帯が存在することとなります。
この市場の大きさを考えるとこれらの企業がモノやサービスを提供することにもうなずけます。
インドの各所得階層の総世帯数に占める割合(年間世帯所得)
出所)インドビジネス再考(野村総合研究所)に記載のインドの所得階層別世帯数2015年推計をもとに作成。所得階層の定義についてはインド経済モニタリングセンター(CMIE)による。
商品の高い技術・品質を強みとし、途上国においては中間所得階層以上に販売することを狙う多くの日本企業を含め、現状ほとんどの民間企業が、BOP市場を利益を出すことのできるメインの市場とすることは難しいかと思います。
しかし、今回の村の訪問をを通して貧困者と呼ばれる人々が購買力や購買意欲を持っていることを実感しました。
民間企業は、この巨大な市場を前にして、BOPの人々や地域のNGOの人々の声に耳を傾け、どのような商品が本当にBOPの人々に必要なのか、その生活に適した販売形態はどのようなものか、そのビジネスの持続可能性は高いかという課題を問われていく時代がきているように感じます。
注釈)
※1村で活動するNGOからの調査に基づく。1ルピー=約1.85円
※2スマートフォン、バイクの値段は村の住人A(学士号、英語のコミュニケーションが可能)に村人が所有するものについてヒアリングしたもの。
※3同政策において口座を開設したものの、預金を行っていない口座も含めている。インド財務省によると、政策開始から翌年の2015年1月末においての新規口座開設数の67.4%が預金ゼロとなっている。
※4国際金融公社と世界資源研究所により「一人当たり年間所得が2002年購買力平価で3,000ドル以下の階層」と定義されている。経済産業省BOPビジネス支援センターが推計。
参考文献)
CMIE(インド経済モニタリングセンター)HP
Hammmond, A. L. et al. (2007), The Next 4 Billion: Market Size and Business Strategy at the Base of the Pyramid, World Resource Institute, International Finance Corporation
経済産業省BOPビジネス支援センターHP「BOPビジネスとは」
野村総合研究所「インドビジネス再考」
Sankei Biz「インド、銀行口座普及率が急増 貧困層向け政策奏功、99.7%に」
世界人口白書2014
今回の記事においては、村人や関連NGOへのインタビューを忠実に反映しています。しかしインタビュー対象について非常に限られた範囲のものであり、その信頼性を保証する限りではありません。インドの村における一つの事例として楽しんで読んで頂ければ幸いです。